山歩き 船形山~泉ヶ岳 テント泊縦走 20141025 その2

 

2014年10月28日 09:21

その1からのつづき。

船形山山頂から泉ヶ岳への縦走路に入り、1時間程度で蛇ヶ岳に到着した。三角点にタッチする。三角点が解り易い山で助かる。
狭い山頂だが、先程まで居た船形山や、これから向かう三峰山が見渡せる。



それにつけても、疲れた時のカントリーマァムの美味さよ。
蛇ヶ岳山頂から見える三峰山を眺めながら、これからの行く先の長さを目前に突きつけられる。
三峰山は、ピークが3つ連なっている。名前はその所以だろう。3つ連なっているという事は、登り下りを3回も繰り返さないとならない。疲労が溜まりつつある精神に軽くダメージを受ける。こんな事で精神が萎えている場合ではない。


のんびりする時間はない。
三峰山に向かって歩き始める。蛇ヶ岳の先の分岐点に居た登山客が、私が泉ヶ岳方面に向かうのを見て「えっ」と声を上げた。それはそうだ。この時間から泉ヶ岳方面に向かう場合、最後はヘッドライトをつけて歩きぬかねばならない事になるからだ。私は途中で1泊するからそうはならないが、テント泊するなどとは、誰も思わないだろう。
少し歩くと、奥から男性が歩いてくる。船形山の三光宮で会った、スカルパの登山靴を履いたお父さんだ。白髪山から戻ってきたようだ。これから向かうんだね、先は長いね、頑張って、と声を掛けてくれた。この先からは人に殆ど会わないだろう。お父さんの貴重な励ましは魂に響いた。


三峰山に近づくにつれて、藪が物凄い事になってきた。手で掻き分けながら進む。下の写真は藪を抜けた先のものだが、こんな藪漕ぎをする事になるとは考えていなかった。
そしてこの三峰山は、熊の影が濃いという。熊鈴を鳴らしながら薮漕ぎしているが、このガサガサに鈴の音がかき消されてしまっている。ラジオをつけよう。音を大きめに設定しておけば、こちらの存在に気付いてくれる筈だ。
ラジオをつけながら歩くと、私も気分転換になる。下らないラジオ番組を聞きながら薮漕ぎを繰り返す。時々、ハハッと笑ってみたりする。


三峰山山頂に到着すると、男性が居た。ラジオを大音量で鳴らしながら来た訪問者に、その男性も驚いた事だろう。まさか人が居るとは思わなかった私も非常に驚いた。
これからどちらに向かうのですか、と聞くと、升沢小屋へ向かって一泊するのだそうだ。なるほど、この男性は泉ヶ岳方面から来たという事は、上級者だ。傍らに置いてあるゼロポイントのザックがカッコイイ。
私はこれから泉ヶ岳方面ですと言うと、テント泊ですね、と私の目的を読み取っていた。水源でするのですよね、と場所まで当てた。これは凄い。凄い人だ。亀仙人の様なサングラスがカッコイイ。きっと、この時間帯で三峰山、背負っているザックのサイズ、向かう方面で推測したのだろう。山の達人だ。
水源まではここからどれ位ですか、と聞くと、2時間くらいだという。今が14時半だから、到着は16時半だ。これから2時間歩かねばならないという現実よりも、16時半という時間の方が気にかかる。
当初の計画では、体力や時間的に不安な要素が残っている場合、水源でテントを張らず、この三峰山山頂にテントを張ろうかと考えていた。しかしこうして三峰山山頂を見ると、テントを張るには、かなり窮屈だ。10月下旬の16時半であれば、まだ日も暮れきっていない状態で目的地に到着出来る筈だ。体力もなんとかいけるに違いない。私は、水源に向かう事を決意した。
山の達人に挨拶し、三峰山をあとにした。



三峰山の3つのピークを登り下りする間は薮との闘いだった。しかも、泉ヶ岳方面から三峰山の山頂手前が急峻な坂になっており、薮と湿った粘土質の土の急登とのミックスで、登りの場合は薮を漕ぎながらヌルヌルの急登と戦うかなり厳しいポイントだと思われる。私は下りでそこを降りたが、何度もヌルッと足を滑らせそうになった。
薮ゾーンを抜けると一気に開けて、ブナ林の下り道になっていく。ここからが長倉尾根だ。長倉尾根は名前の通り、長い長い尾根道だ。尾根と言っても、ひたすらブナの林間を進んでいくだけだ。この変化の無い道を2時間も歩かねば目的地に到着しないのだ。
だらだらと続く下りの道が、私の足に疲労を蓄積させていく。重いザックだからこそ、転ばないように慎重に足を出さねばならず、スピードが上がらない。


だぁーっ!もう限界!ちょっと休憩!こんな道、2時間も歩いてられっか!
チョコクッキーを口に入れ、ハイドレーションをチューチューする。ん?水が出てこない。げぇーっ!!2Lも準備した水が尽きた!!
今日の午前中は暑かった。2Lも準備していたので水の消費を気にせず、飲みまくった。まさか2Lも飲みきる事になるとは思わなかった。水分補給は続けていたが、おしっこはしたくならなかった。全て汗として外に出て行ったという事だ。山歩きの激しさを実感せざるを得ない。
予備の水からハイドレーションに水を補給するのは、ザックを掘り返して行わなければならない。目的地まではあと1時間もないし、面倒臭い。このまま進もう。ちょっとしたトラブルはつきものだ。仕方が無い。


夕焼けだ。ブナ林が紅く染まった。紅葉は終わってしまっているが、今、この瞬間だけ美しい紅葉の季節に戻ったようだ。
ラジオで、「いづもあぺとぺなこどばりかだっでっけど、こいづだげは本当です。4時です。(標準語訳:いつも出鱈目な事ばかり申しておりますが、これだけは本当です。4時です。)」という世界一酷い時報を聞いて、ブホと噴出した。


ようやく今日の最終目的地の水源に到着した。到着時刻は16時半頃だった。
ここがテント場だ。しかし、何というか、思っていたのと違う。確かに平らでテントが張れそうだが、頻繁に利用されている様子がない。もしかすると、誰かテントを張っているのではないかという思いがどこかにあったが、人の気配は全く無い。今晩、私が一人である事が確定した。少し寂しくもあり、一人で嬉しくもあり、不思議な気持ちだ。


焚き火の跡があった。黒い燃え残りの木が散乱している。
焚き火をしたい気持ちがむらむらと湧いて来るが、この落ち葉だらけの環境で焚き火をするのは危険だ。
もし焚き火が出来たら、テント泊でなくて、ソロキャンプと呼んでも良いのではないかと思っていたが、今日はテント泊だ。焚き火の無い自然の夜をどうやって過ごそう。


落ち葉、木の枝、木の実をどけてスペースを作り、テントを設営する。風がないから、四つ角の張り網のペグダウンは不要だろう。
テントの中にザックを運び、マットやシュラフを準備する。ここまではソロキャンプの時と同じだ。違うのは、テントの中で寝るまでの夜の時間を過ごす事になるという事だ。ストーブの位置や、LEDランタンの位置、ゴミ袋の位置などを決め、夜に向けて準備する。



テントの中で過ごす事になるのは想像していたので、本を持ってきていた。
私の大好きなクライマー、山野井泰史さんの昨日発売された新刊「アルピニズムと死」だ。昨日、家に届いていたが、読むのを我慢し、このテント泊の夜に読もうと我慢していたのだ。
山野井さんは、メディアに露出する方ではないので、誤解されやすい人だと思う。私も誤解している側の人間だ。私は私の中で山野井さんのイメージを作っていて、本を読んでいると、時にその勝手なイメージが邪魔をする。
ソロ志向の私が気に入った節をがあった。
「僕は上手くなるのが遅くなったとしても、情報が早く手に入らなくても、小さな石でもいいから一人で対峙し取り組んでいたい人間だった。ゆっくりと吸収する……。これも重要なことの一つかもしれない。(167Pより)」
私も人に教えを請いたいと思う事がある一方、解らなくてもいいから、自分で判断して進んで行きたいとも考える。今回の山行もそうだ。人から情報を得られないのであれば、自分で何とかやってしまおうというのが行動の理屈だ。成し遂げようとするレベルは天と地ほども違うが、同じ人間なのだから、共感する部分があってもいいだろう。


さあ、夕食だ。鍋の材料と、キムチ鍋味の鍋キューブ2個、締め用のうどんだ。
手元の水は、明日の給水用としてある程度残しておきたいので、食事用の水は水場から調達する。綺麗な水だ。これが山の醍醐味だ。
お湯が沸いたら鍋キューブを投入し、下茹でしてきた根菜類、肉、キノコ、ねぎ、キャベツの順で煮ていく。ああ、美味そうだ。


出来上がりを待ちながら、ビールをプシュッとやる。山に感謝して、喉が拒否するまで一気に飲む。乾いた体に効く。美味い。
ちくしょう、何だこんな美味いもの!


鍋を食べる。インスタントの味付けなのに、結構いける。美味い。根菜を下茹でしてきたのが正解だった。
あっという間に具を食べ切り、締めのうどんを入れる。普段は小食な私だが、うどんもぺろりと胃に納まった。


テントの中に入り、本を読んだり、ラジオを聴いたりする。
時々、野生動物の足音のようなものが聞こえたり、良く解らない音が聞こえる。
怖くないというと嘘になるが、このLEDランタンの光と、ラジオの音が怖さを和らげてくれる。


寒くなってきた。テントの中の気温は5度だ。
ウイスキーのお湯割を作って飲もう。テントの中でストーブに火を点ける。ゴーッという音とともに、テント内の温度が一気に上昇する。この温度の上がり方、ムワッとした感覚で気持ち悪い。お湯が沸くまでの我慢だ。この不快な暖かさ、これは何なのだ。
お湯が沸いたので、スキットルからシエラカップへウイスキーを注ぎ、お湯で割る。ズズとすすると、食道と胃が暖かくなる。2杯ほど飲んだら体が温まったので寝た。
しかし、深夜、膝が寒くて目を覚ます。我慢して目を閉じるが、こればかりはどうにもならない。急遽ザックからダウンのパンツを引きずり出し、トレッキングパンツの上から履く。あの寒さがウソのようになった。スリーシーズン用のシュラフだけでは、そろそろ厳しい季節だという事だろう。だが、手持ちのダウンジャケットやパンツと組み合わせることで乗り切れるので、まだこのシュラフでもいいかも知れない。


二日目は時間的な縛りが一切ないので、起きた時間に準備してのんびり出発しようと思ったが、5時半に目が覚めた。それもそうだ。昨日寝たのは9時頃だった。
案の定、体の筋肉が軋む。ビキビキである。歩き始めて体が温まれば、少しは改善するだろう。
コーヒーは辞めているので、お茶を飲む。温かさが染み渡る。朝食もインスタントで適当に済ませた。
テント泊というのは、テントの中で色々こなす事になる。つまり、朝も外には出なかった。朝の気持ち良さは空気の清浄さにあるが、それもテントの中では半減以下だ。私の過ごし方の問題だろうか。
いずれにせよ、テントの中ではする事がないので、撤収して山歩きを再開する。


ああ、モルゲンロート(山が朝焼けで赤く染まる事)だ。木が邪魔だ。
暗い内に出発し、山頂に立ったら、私もモルゲンロートの一部になれただろうか。


また藪か。これは森林限界以下の山の宿命なのかも知れない。
藪漕ぎをして思うのは、マダニが居て、気づいたら刺されたりしていないだろうか、という事だ。死ぬ事もあるウィルスを持っているそうなので、藪漕ぎする時は少し気にかかっていたのだ。
次の目的地の北泉ヶ岳の手前は少し急な坂になっていて、寝起きの肉体にはやや堪える。息を吐くことの方に集中すると、体が良く動いてくれる気がする。無駄にフゥーとゆっくり吐く。


北泉ヶ岳山頂だ。以前タッチした事がある三角点にもう一度タッチするのは、今回が初めてだ。
山頂から下の方に桑沼が見える。時間があるのだから、行って見れば良かったと後になって思う。



三叉路から泉ヶ岳方面へ向かう。
北泉ヶ岳以降は見知った山なので、歩く安心感が違う。知らない道を、いつ着くぞやも想像しがたい道程を歩いていくのは不安が付きまとうが、もうここからはウイニングランのようなものだ。


だが、私はこうして泉ヶ岳に来ると思う。ここはナメてはいけない山だと。木々の隙間から覗く泉ヶ岳の傾斜は決して緩くない。
仙台市民の憩いの山の一面を持ちながら、山をナメた初心者を撥ね付ける厳しさを持ち合わせている。
私の2ヶ月前の最初の山歩きは泉ヶ岳だった。山に油断してはならない事を泉ヶ岳から学んだのだ。楽しい山かどうかは別として、学ぶに値する、素晴らしい山だ。


やや厳しい坂を越えると視界が開ける。
振り返ると昨日から歩いて来た山が見える。右手前の山が北泉ヶ岳、中央よりやや右の三つのポコポコ並んだピークの山が三峰山、その右隣の船をひっくり返したような形の山が船形山だ。
山を見て、あれはなんという山だよ、とすぐ解る人がいるが、その山を登った事がある人であればすぐ解るようになる事が理解出来た。自分の足でどんな形をしているかを辿ったからだ。蔵王連峰を遠く眺めて、それぞれのピークが何なのかが解るようになっていたが、昨日と今日で船形山山塊を理解してきたように思う。


泉ヶ岳山頂だ。ここに来るのは3度目だ。
ここで2日間やりきったぞ、という思いが出てきた。まだ下山が残っているのに早い。精神の緊張感は大事にしておかねばならないのにだ。



ロイズのチョコバーの美味さよ。融けて見た目が悪くなってしまっているが美味さに変化はない。
私は甘いものは好きではないが、山では美味しくて食べてしまう。エネルギーは積極的に摂っていこう。


滑降コースで下って行く。


途中までは、前回登ったかもしかコースとルートが同じだ。前述したように、泉ヶ岳は結構急な山だ。下りも馬鹿に出来ない。特に、落ち葉で道が埋まりかけているのが危険だ。石が落ち葉から顔を出していても、それが足を乗せていい石なのか浮石なのかは、足を乗せてみないと解らない。泉ヶ岳の山頂で「やったぞ」などと思っている場合ではないのだ。


お別れ峠から駐車場へ向かう。
滑降コースは水神コースの様に人が集中するコースではない。人とすれ違いはするが、多くは無い。しかし、泉ヶ岳という市民の山で65Lザックを背負って、帰り道を急いでいる男は目立つ。あの人あんな大きなザックを背負って格好つけて馬鹿じゃないの、と思われているのではないかと恥かしくなる。


登山口に到着した。2日目もなんだかんだで結構時間を使ってしまった。
感慨深い2日間だった。こうして30km近い道程を歩いて、肉体は疲労困憊なのに、次週何をしようかと考えているのも不思議だ。
テント泊の山はとても良かった。でも、テント泊出来る山がない宮城県はとても残念だ。他にテントを張って山歩き出来る山はないだろうか。


山を歩いた帰りは、必ずソフトクリームが食べたくなる。いつも我慢していたが、今回は食べた。美味かった。このソフトクリーム食べたい現象は何なのか。



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10月25日学んだ事:
   ・水は多めに持参せよ
   ・山はテント泊してこそ楽しい


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